少子化と拡大家族

Kazuma Muroi

Shalom Homesの代表取締役。NPO法人横浜市まちづくりセンターの理事。執筆テーマは古武術・子育て・民俗学・宗教学。

2016年厚生労働省政策統括官(統計・情報政策担当)


 現在の日本の社会状況は、子どもを育てやすい環境とは言えません。共働き家庭ありきで経済が構成され、子どもが帰ってきても母親が家にいないということも珍しくありません。また、一人親家庭の割合は2.5%を超え、日本の未来を担う子どもたちを取り巻く環境は悪化の一途を辿ります(厚生労働省 参照)。また、子どもが家庭に居場所を築けずに、自信を持てないことから、アイデンティティを形成できないという状況も生まれています。その状況を打開するために、提案したいことは、拡大家族の家庭の割合を13%以上にすること、子どもを多く抱える家庭の税金還付と虐待家庭の削減を並行して行います。日本の現在抱える社会問題のほとんどは、日本人の子どもが増えれば解決できるものだからです。 


  拡大家族世帯のメリットは5つ挙げられます。まず、親となる大人を精神的に支える大人がそばにいます。平成28年、第一子を出生する母親の平均年齢は30.7歳で、その年齢は毎年微増しています(人事院 参照)。その30歳で初めての子どもを育てる時に、親が近くでサポートできない世帯では、子育てという初めての仕事が両親にのしかかります。経済的に自立することと、精神的に自立することはイコールではなく、子育て経験のある大人が同居していることは、両親には国のどの施策よりも心強いサポートとなります。 

 2つ目、親世帯が子どもに束縛される時間を分散できます。幼児期の子どもは常に大人がついていなければならず、核家族では母親が主にその重責を担っています。また、幼年期には、自己承認のために会話相手を求めるようになります。拡大家族家庭で老親がいる場合には、会話をしたい子どもと、時間を持て余しているお年寄りのニーズがうまく噛み合います。子育ての悩みの上位5位(メディアPRIME 参照)には、子どもとの接し方や時間に関するものが4つを占め、それらが拡大家族で解決することができます。 

 3つ目は、お年寄りのもつ生活の知恵を親世帯、子世帯に伝承する時間を長く持つことができます。今の日本人の子どもに足りないのは、歴史と伝統に対する敬意です。それらを軽視することで、自分の立ち位置を見失い、アイデンティティを肚に落とし込めずに社会に出ることになります。多世代間交流を通し、今の自分に続く軌跡を理解することは、子どもの人格形成に多大な好影響を及ぼします。

  4つ目は、お年寄り世帯と家計を同じくすることで、若年世帯の経済負担を減らすことにも繋がります。国民負担率をみると、昭和50年で33.3%、令和5年で53.9%(財務省 参照)です。少子高齢化に伴う社会保障費の増大、財政状況など、要因は多岐に渡りますが、家計に対する負担が増えたという事実は変わりません。高齢者世帯では一世帯あたりの平均貯蓄高は2386万円(総務省 参照)と言われており、不動産等を含めた総資産も含めれば、その金額はさらに膨れ上がります。核家族世帯の大きな悩みになっている住宅購入費も、老親世帯の不動産を再利用することで、費用を軽減することができるのです。

  さらに、児童虐待でいえば、リスクが高まる家庭環境は、未婚を含む単身家庭、内縁者や同居人がいる家庭、子ども連れの再婚家族、親族や地域社会から孤立した家庭です(厚生労働省 参照)。これらは、拡大家族であれば防げるものばかりであり、家族による保護の目は、子どもを育てるばかりではなく、虐待をしようとする人間を思い留まらせる監視の目としての役割をも担ってくれるのである。 これらの点から、私は現代の子育てサポートについて、国が全てをカバーしようとするのではなく、民間の力を活用するよう国が促すことを提言します。その第一歩が拡大家族世帯の数を増やすことです。


 目標の拡大家族世帯率13%という数値は、日本国民の生活意識調査において、苦しいと答えた世帯が34.2%(平成28年は56.5%)と一番少ない時期から算出しました(厚生労働省 参照)。 拡大家族を促す施策の内容は、まず税制優遇です。扶養家族の人数、住民票の住所地を元に、同世帯と認定できる家庭に住まう国民の、税金還付を行うことです。確定申告時での還付が、現代の制度を大きく変えることなく行えるため、地方公共団体の負担も少なくすることができます。次に、不動産取得の優遇で、拡大家族世帯に対する、UR都市機構の物件取得優遇、不動産購入や売却に係わる多くの税金の減免を行うことです。また、拡大家族を誘致する特区を創設します。子育て負担を減らすことで、親世帯が近隣の人々と交流を重ねることで、街自体に活力が生まれていきます。また、税制優遇で減った税収については、削減を期待できる社会保障費で賄います。 

 

 日本に元気をもたらすには、日本国民の子どもの数を増やし、家計負担を減らすことが第一です。人は一人では生きられません。子育てという原点に着目して、国民が活力を持てる社会づくりをすべきではないでしょうか。


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