三世帯家族(拡大家族)は子育てに向いている

Kazuma Muroi

Shalom Homesの代表取締役。NPO法人横浜市まちづくりセンターの理事。執筆テーマは古武術・子育て・民俗学・宗教学。

拡大家族から核家族に移り変わった現代

子育てに関する確たる柱が失われ、教育の迷走が始まって久しい中で、日本の子育ては大きな問題にぶつかっています。他人の子どもに口出しをするな、子どもに手をあげることは絶対にいけない、公共の場では静かにさせろ、など年々親世帯に向けられた暗然たる要求は厳しいものになっています。そうした不寛容な社会とは隔離された家庭でも居心地の悪さを感じるケースが数多く存在します。戦後の東京への若者の出稼ぎから、故郷を離れて都心で核家族(両親と子どものみの家庭)をつくることが主流となり、「結婚=実家を出る」という考えが定着するに至りました。

ところが、戦前は拡大家族(両親と子どもに加えて祖父母世帯や叔父叔母世帯が同居している三世帯超の家族)が主流でした。アニメのサザエさんやちびまる子ちゃんを例にとると分かりやすいです。実は、拡大家族によって、子育て疲れや金銭問題など若者夫婦を苦しめる多くの問題は解決できるのです。


子どもが独りぼっちにならない拡大家族

現在の20代~30代は時間的束縛を嫌う傾向にあります。子供が小学生未満の場合、母親に自由な時間はほぼありません。子どもが母を慕うのはもちろんですが、公園には付き添わなければならず、どこに行くにも常に子供と一緒です。父親は土日にゴルフや、趣味に打ち込みたいところですが、母親では難しいアクティブなイベントへ子どもを連れて行くことが多々。両親が共に、子どもを重しに感じてストレスを溜めてしまうのです。

一方、拡大家族では老親がいつも家にいます。人と会話したいお年寄りのニーズと、人に話を聞いてほしい子どものニーズががっちり噛み合います。家の中での家事の分担もできて、子どもの対応を分散できて、不慣れな子育てに四苦八苦する若夫婦にとっては、祖父母世帯の存在は非常に大きなものとなります。また、祖父母世帯にとっても、子どもと孫がそばにいることは、心の安定に繋がります。


金銭面での負担を分担できる拡大家族

また、若者夫婦を苦しめる住居に関する出費も、金銭的に余裕のある老親と住むことで解決できます。「自分で家を建ててこその一家の主」という考え方が根強く残っていますが、平均年収400万円代で都心の建売4000万円を買うことは至難の業です。

諸経費を入れて5000万円を35年ローンで組んだ場合(年利1%)
月に¥141142 × 420か月 = 利子込み¥59279996
年収400万円は手取りが32万円程度で、そこから14万円のローンを組むことは現実的ではありません。頭金があったとしても、借金に束縛されてしまい、まさに家を買うことは「終の棲家」に縛られるが如しです。

そして、少子化によって子供が減っているのに、学校数(特に大学)はあまり減らず、通常は価格崩壊が起きるのですが、逆に教育費が高騰しています(税金投入による大学の延命政策についてはここでは割愛)。かつては子どもを成人まで育てるには一人頭二千万円と言われていました。しかし、公立学校でも塾に通わせることが当たり前になりつつあり、携帯所有年齢は年々早くなっていて、四千万円以上かかることも稀ではありません。高等教育を受けさせるためには子の数を減らして資金を集約させること、つまり、子どもの人数を減らして教育費をその子に手厚く費やすことが時代の流れとなっているのです。教育費の高騰、子どもの数の減少、少子化はセットの問題なのです。

老親世帯との同居はこうした金銭面でもメリットがあります。生活費が割安になるので、余剰がでてくるのはもちろんですが、老親世帯は娯楽面での支出は若年層に比べて遙かに少ないです。子や孫にお金を使うことを渋る祖父母はおらず、新しい世代を共に育むことは必然といえます。事実、日本はお年寄りの貯蓄額が世界でトップクラスに多い国であり、孫への出費で資金を循環させることは、経済的観点からも健全です。

加えて、児童虐待という面でも、老親はストッパーの役目になります。感情的に子どもに折檻してしまいそうになる場面でも、それを諫めてくれる祖父母世帯の存在、また、子育てに苦悩するときに相談することができる存在というものは、初めての子育てに苦労する親世帯にとってありがたい存在です。家族がいても家に帰りたくない(帰れない)10代の青少年は実在します。その理由は千差万別ながら、少なからず家にいると親と顔を合わせてしまうことから逃げたい事情があるのです。父親からの性虐待、母親からのネグレクトなど、枚挙に暇がありませんが、祖父母世帯の存在は一種の監視機能を果たすことになり得るのです。


人に囲まれることで人は育ってゆく

日本において祖父母世帯との同居を敬遠する一因になったものは、「嫁姑問題」を大々的に取り上げたメディアによる世論誘導です。姑が嫁をいびる、マザコン夫が親にべったり、などと義父母との付き合いに苦労する妻象を作り上げてしまったことが、核家族化を促進したことは間違いありません。

義父母は他人ですが、配偶者も所詮は他人です。血縁以外の人間とも心を通わせることができるのが人間であり、そこに固執するのはいささか視野狭窄です。また、妻の家族との同居もありうるわけで、夫婦で真剣に話し合う時間が必要でしょう。結婚相手との甘いひと時を過ごしたい方々は、出産もしくは住居購入を期に同居を選択してみてはいかがでしょうか。

孤独は人を狂わせます。多くの人と交わることで、人は角が取れていくものです。プライバシーを気にするならば、玄関のみ共有でLDKが別の住宅や、玄関から別の住宅もよいでしょう。家に帰れば誰かがいる、子育てに疲れても頼れる家族がいる、という安心感は新米妻には非常に心強いものであり、親以外の価値観に触れることは子どもにも有意義です。親のため、子どものため、そして自分のためにもご検討してみてはいかがでしょうか。家庭は一番小さな社会の構成要素です。そこが安定することで人々の心の安寧は確保されることでしょう。

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